みなさんは民間ロケット「カイロス」の名前を聞いたことがあるでしょうか。2022年に民間企業が建設する日本初のロケット打ち上げ射場が完成したというニュースを聞いたことがあるかもしれません。「カイロス」はその射場から打ち上げられる小型ロケットです。
カイロスを開発している「スペースワン株式会社」は商業宇宙輸送サービスを目的として設立された企業です。
宇宙旅行のように、宇宙輸送サービスなんて遠い未来の話のように感じるかもしれません。
しかし人工衛星を活用した技術は今後もっと身近なものになり、私たちの暮らしを支えることになっていくでしょう。
今回は、カイロスの打ち上げに合わせて、子どもたちにもっと宇宙やロケットに興味や理解を深めてもらいたいという想いから2023年1月15日に開催された一般財団法人雑賀技術研究所が主催 の「サイカ/宇宙・ロケット・人工衛星教室」ワークショップを見学しました。
このプロジェクトは中高生39人が参加しており、1回目のワークショップは前年8月に開催されました。今回は2回目となり、27名の受講生のみなさんがロボットや宇宙についての学びを深めました。
和歌山県宇宙教育研究会
事務局長 藤木 郁久 先生
明るさを検知するボールセンサー、床の変化を検出するラインセンサー、衝突を検知するタッチセンサーなど様々な機能が搭載された、「月面ローバー」をイメージしたロボットにプログラムを実装し動作させます。プログラミングアプリ「C-Style」を使用し、プログラミングの基本的な構造を学びました。
仕組みを理解することで自分なりのトライ&エラーが体験でき、複雑な動きを再現している受講生も。
受講生自身が考えて試す姿が見られる、中高生対象ならではの自由度の高い授業でした。
授業の最後は「黒い線の上を早く走らせよう」という目標を定め、各自チューニングを繰り返し、タイムアタックレースが行われました。
優勝者には受験研究社から出版されている、理科の楽しさがぎゅっと詰まった『スーパー理科事典』が贈呈されました。
みさと天文台
館長 山内千里先生
宇宙航空研究開発機構 JAXA(ジャクサ)で研究員として従事されていたみさと天文台(和歌山県海草郡紀美野町松ケ峯180)館長による宇宙のお話。
科学で一番大切なことは何か?それは「疑うこと」。
宇宙についてはまだこれから多くのことが解明されていきます。そのなかで、自身が知っている、学んできたことが必ずしも答えではないということを常に感覚として持っておかなければなりません。
JAXAで研究員として働き始めると、自身が「知っている」と思っていたことは学校の教科書で知識として知っていたことにすぎない、ということに気づかされるという体験ばかり。「そんなの知っていてあたりまえ」と思っていたことは思い込みで、もっと深く理解しなければならないことがたくさんあったのです。
月の満ち欠けはなぜそう見えるのか?教科書に書いてあることや学校で学んだことを実生活とリンクさせて理解する。この、教科書よりも深い理解を身につけていくことが大切だとお話しされました。
そこで実例の一つとして月の満ち欠けを体感できる教材を作ることに。球体の半分に黒色を塗り、白い部分の中心に竹串を指します。竹串の方向から太陽がさしたとき、月の形はどのように見えるのかが分かる教材です。
また、地球、太陽系、銀河系、など天体の大きさや距離の感覚を3D映像をつかって紹介してくださいました。
太陽は宇宙の中でどれくらいの大きさなのか。一番遠いといわれている惑星はどれほど遠いのか。図や文章で理解するだけではなく、感覚を養うことができました。
一般財団法人 雑賀技術研究所
中西 豊 先生
2023年、和歌山県串本町にある「スペースポート紀伊」から打ち上がる予定のロケット「カイロス」のお話。 「カイロス」は先に発射に成功している「イプシロン」と同じ固体燃料ロケットということで、イプシロンロケットの構造、役割、ロケットに搭載される衛星について学びました。
日本列島は広大な太平洋に面し、東と南には大きく開けた海を臨む立地であることからロケットの射場として好条件です。 ロケットは日本から打ち上げられた後どうなっていくのか? ...第一段、第二弾分離、モーター点火、次々と人工衛星を分離するタイミング...などを学んだあと、J AXA が提供しているイプシロンロケットの飛行経路の地図を拡げ、ロケットの状態が刻々と変化していくカード11枚を時系列に並べるパズルに3〜4名ごとのグループワークで取り組みました。 ロケットの打ち上げを肉眼で確認した後の、ロケットの軌跡を想像することができる貴重な授業でした。
今回のワークショップでは、月面 探査ローバーへの興味、天文学への興味など、それぞれの思いで参加された受講生に出会い、お話を聞くことができました。
・2021.03(中学三年) ロボカップジュニアNRL優勝
・2021.10(高校一年) WRO2021 全国大会出場
・2022.07(高校二年) 缶サット甲子園 和歌山地方大会 優勝 (サポートメンバー)
・2023.01~03(高校二年) ロボカップジュニアWRL 関西ブロック大会優勝 全国大会出場決定
私は小さい頃からロボットに興味があったわけではなく、中学校の部活で初めてロボットに触れ、それから興味を持ちました。
現在は高校の部活でもロボットを作っていて、チームのメンバーと共にロボカップジュニア レスキューライン競技に挑戦しています。 今年度の大会では従来のようなブロックを用いた筐体ではなく3Dプリンタなどで作った独自筐体と、独自の基板を持つロボットを使い、全国大会へ出場することができました。
将来は情報セキュリティに携わる仕事に就きたいと考えています。プログラミングの技術書で情報セキュリティに関連する記事を読み興味を持ったことがきっかけです。日々考え出される攻撃手法とそれに伴って進化していく安全確保のための技術。この奥深さは他にないほど面白いものだと思います。
また、たくさんの組織の情報システムを守るという仕事のかっこよさに惹かれたというのも理由です。
今回のプロジェクトでは、ロケットを間近で見られ、さらに宇宙開発に関する技術を学べるということに魅力を感じて応募しました。昨年開催された夏休みの合宿には残念ながら参加できませんでしたが、今回のワークショップだけでも、大変学びが多く充実した経験になったと思います。
地元和歌山が宇宙開発事業の扉となることはとてもうれしいことであり、打ち上げ成功に期待しています。
溝上さんの話を伺うと、プログラミングを体験できる環境が身近にあったこと、それを楽しいと感じさせてくれる先生や仲間がいたことが、未来の自分を描く力になっているのだと感じます。
今回のワークショップでも、互いに学校も学年も違う受講生のみなさんが、楽しそうにコミュニケーションをとりながら授業を受けている様子がとても印象的でした。
興味のあることに対して一歩行動を起こす。仲間を見つけることで、心から楽しいと思える学びに繋げる。
私たちもそんな学びのきっかけを作っていきたいと思います。
カイロスの打ち上げは2023年を予定しています。
宇宙ってどんな空間?ロケットが飛ぶ仕組みは?など、宇宙やロケットについて調べておくと、カイロスの打ち上げの様子を見るのがより楽しみになるかもしれません。
発射の日まで宇宙に思いを馳せてみませんか。
【取材協力】
一般財団法人 雑賀技術研究所
理事 中西 豊 様
(https://www.saika.or.jp/)
和歌山県宇宙教育研究会
事務局長 藤木 郁久 先生
(https://wakayama-space.org/)
みさと天文台
館長 山内 千里 先生
(http://www.obs.jp/)
和歌山県内の中高生27名のみなさん
ありがとうございました。